「世界最強の富裕層」プライベートエクイティ・プロフェッショナルと「超富裕層投資家」の世界

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私は、グローバル大手のプライベートエクイティ(PE)ファンドや、その他オルタナティブ投資プロダクトの創業社長たちと、さまざまな国で仕事をしてきた。驚くのは、どの国に行っても――その人の「家」と呼ぶには大きすぎる、もはや“お城”と呼ぶべき豪邸が、数多く存在することである。

ニューヨーク・マンハッタンのど真ん中、ロンドンのメイフェア周辺、さらにはヨーロッパ某国の離島に至るまで、圧倒的なスケールの邸宅を有している(もちろんドバイも)。詳細は差し控えるが、彼らの「一国に183日以上滞在しない」という執念はものすごく、支払う税金を勘案すれば、世界中に“お城”を4つほど持ち、数カ月ずつ滞在するほうが安上がり――という発想にも合点がいく。

ニューヨークでは、マンハッタンはもちろん、ハドソン川やブルックリンまで360度を一望するパノラミックなペントハウス。天井高は2階建て――いや、体感では3階建て分ほどある。奥さま手製のチョリソーやチーズ、タパスが並び、リビングのワインセラーに眠る数千本の高級ワインから一本を開けてくれる。ワインの味など、5000円でも50万円でも大差がわからない私に、である。

(ちなみに数十万円級の長期熟成ワインは渋み・苦みが強い傾向を感じるが、正直、1万円前後のフルーティーなKenzo Estateの“Rindo”か、さすがに味がわかるOpus Oneの8万円くらいのボトルで、私には十二分に“高すぎる”と感じるのだが……)

ビジネススクールの友人の結婚式でパキスタンを訪れた際には、当時イムラン・カーン首相だったこともあり、首相官邸の隣に大学か図書館、あるいは博物館のような美しい建物があった――それが友人の家で、リビングはクリケット競技場並みに広かった。

インド・ムンバイの富豪で、不動産ファンドを始めた友人の家では、深夜に豪華ビルのワンフロアを貸し切り、富裕層を多く招いたボリウッド・ダンス・パーティーが開催されていた。最大音量の音楽、全開の窓、熱狂――「さすがにご近所迷惑では?」と尋ねると、「このビルは全部オレのものだから問題ない」と微笑まれ、強めのテキーラショットをたっぷり振る舞われたこともある。

ほかにも、私の上司は某国のマリーナベイ・エリアで新築マンション最上階の2フロアを買い占め、巨大なペントハウスに。建設中で窓が入る前にクレーンで、最初のF1で走ったフェラーリを搬入。最上階のリビングに並べ、趣味のフェラーリ(ちなみに11台所有)を鑑賞している。

一方、私が駆け出しの、某外資系投資銀行・東京オフィスの下っ端バンカーだった頃。60歳前後のMD(マネジング・ディレクター)が自由が丘に約3億円の新居を構え、再婚した20代の若い奥さまとホームパーティーに招いてくれた。

とはいえ、MDといえどサラリーマン。年収はせいぜい数億円、税引き後は1.5億円程度。小金持ちにはなれても、その後に共に働くことになった世界の富豪たちとは、住む世界も、目線も、人間関係の質も、まったく異なるのだ――という現実を痛感した。

では、こうした「世界最強の富裕層ディールメーカー」から、「世界最弱の凡人ディールブレーカー」は何を学べるのか。

私のキャリア上、PE業界の具体例が多くなるが、コンサル、投資銀行、多国籍企業、ベンチャー、事業会社――どのキャリアにも共通する教訓として、「世界の超富裕層の仕事術・人間関係・キャリア選択」から、凡エリート(年収2000万円そこそこの若手サラリーマン・エリート)でも学べるポイントを、「①キャリア選択・転職」「②人材教育」「③人生の生き方」の3つの観点に落として書き綴っていこう。

プライベートエクイティでも、どんな仕事でも――「楽観主義」が強い

成功してファンドサイズを1000億、2000億へと順調に拡大し、ファンドレベルのMOCで4倍、キャリーでどかんと稼ぐPE創業者たち。対して、最初は何とか100億、うまくいっても300億規模を集めたものの、小さく始まり小さく終わる――いつまでも100億から上に上がれないPEファンドも存在する。

しかも、それが「小さいファンドで高倍率MOCのエグジットでキャリーを稼ぐ」明確な戦略ならまだしも、マネジメント・フィーも増えず、キャリーも出ない。AUM100億・社員10人(うち投資プロフェッショナル6人程度)――という“100億10人ファンド”も、実際に少なくない。

この明暗を分けるものは何か。

まず、ファンドを大きく成長させた成功型の創業者は、総じて楽観的である。楽観的――“楽を観る”と書くが、これは深い言葉だ。どんな状況でも「楽しい側面を見つけ、その絵を皆に見せてエキサイトさせる」。成功するリーダーの多くが備える特性である。

楽観的なリーダーと話していると、こちらも明るく前向きになる。結果、優秀な人材が“安い値段”で集まり、資本も“低い期待リターン”で集まる。失敗しても、愛嬌一発である程度は許される。英語で言えばOptimistic。つまり、同じ状況にいてもどれだけOpportunity(機会)を見出せるかに、個人差が大きく出るということだ。

こうしたPEマネジャーは、案件が乏しい局面でも「価格規律を守り、皆さまの資金を慎重にお守りしています」と前向きに語る。投資が失敗しても「我々は時に一緒に稼ぎ、時に失敗して一緒に賢くなる」と、Apologetic(謝罪口調)にならず、ポジティブにまとめてくる。ファンドレイズの最中に主要幹部が辞めても、「起業家精神を重視しており、弊社での経験を糧に業界全体を高めてほしい」と、祝賀ムードすら醸し出す。

リターン目線の説明が「やや盛っているのでは」と感じる場面もある。だが、チャーミングな笑顔と“大物の落ち着き”で、「この人と一緒にいると楽しい」という動物的直観を伴ってメッセージを届ける。その結果、相手はファン=応援団となり、多少どころか多々の失敗ですら、周囲がカバーしてくれるのだ。

① キャリア選択の教訓:「何をするか」より「誰と働くか」

結論から言えば、楽観的な人が多い職場(PEに限らず)を選ぶと、精神衛生は大きく改善する。

どうせ、どうしても「これをやりたい」という仕事など、9割以上の人には存在しない。であれば、「自分はどんな人と一緒に働きたいか」を軸に選んだほうが、満足度は高くなる。

もちろん、「善人がいるから」という理由だけで、先がないブラック企業で低賃金に甘んじるのは論外だ。だが、2つの有力オファーで迷うなら、目を閉じて“どちらの人と休日を過ごしたいか”で選ぶ。しばしば、楽観的な人はストレスフルな環境でも楽しい側面を見出し、勝手に機会を発見して周囲を巻き込み、エキサイティングな旅路へ連れていってくれる。

対照的に、悲観的な人がリーダーだと、失敗時に備えて分厚い契約書やタームシートを積み上げ、起こりえないリスクにまで保険をかけるような要求を周囲に投げ、げんなりさせる(会計など管理畑出身のパートナーに多い印象)。楽観的な絵を描けず、悲観的なガードだけを固める結果、「担当パートナーを変えてください。この人なら案件を進められません」と、内々にWhatsAppで依頼されてしまう――そんな現場も見てきた。

② 人材教育の教訓:楽観は“鍛えられる”

子どもを楽観的な人間に育てるにはどうすればよいか。性格は、遺伝的なドーパミン・セロトニン分泌に影響される面もあるし、後天的な生活環境・学習成果の影響も大きい。第一に、大人が日頃から“楽しい側面に光を当て、機会を探す”思考を実演し、伝えること。それが、後天的に可能な最重要の作業である。

③ 人生の教訓:「悲観は感情、楽観は意思」

拙著『最強の働き方』でも触れたが、悲観は感情、楽観は意思の産物と言われる。ごく一部の“天然”を除けば、日々、意識的に自分の人生と仕事の「楽しい側面」「楽しくなりうる側面」「潜む機会」を自問する習慣が、何より重要だ。朝起きるなりお気に入りの動画サイトで昭和プロレスやお笑い、あるいは口にしづらいサイトに2時間を溶かすより――である。

【本コラムの教訓】

楽観的になろうとするほど、楽しい側面に気づき、機会が増える。