総合商社への就職と転職:総合商社で得られる4大グローバルスキル
0.01%の難関、米国トップMBAホルダーが語る総合商社に入社して得られる4つのグローバル力
米国トップMBAスクールであるWhartonへの2年間の留学期間は、ゴールドマンサックスのニューヨークオフィス出身の同級生やシリコンバレーの起業家をはじめとし、世界中から集まるトップ0.01%の優秀なビジネスパーソンと日々机を並べて議論を続ける毎日で、多くの苦労もありましたが、一方で私自身が留学前の7年間の総合商社で得た経験やスキルがどの程度グローバルエリートの中で通用するか、という点を測る良い機会となりました。
留学前は、日本特有の業種である「Japanese Shosha」、でのたたき上げの経験が名だたるマッキンゼーやグーグルといったバックグラウンドの人材相手にどの程度通用するのか、若干懐疑的な部分もありましたが、実際には多くの面でグローバルに通用するスキルが商社の経験を通して得られていると感じました。
そうした経験から、グローバルなキャリアを目指す上で、20代や30代に に5〜10年といった単位で商社の業務を経験することは、非常に有用である、と思っています。中途や新卒で商社のキャリアを考えられている方へのご参考として私が感じたグローバルで通用する商社力について具体的に4つ上げたいと思います。
1)利害関係者間での挟まれ経験が、優秀で個性の強いエリート集団のまとめ役に
まず仕事柄、商社の業務では大小のプロジェクトマネジメントの機会が非常に多いです。政府関係者やメーカー、取引先や販売店から顧客まで巻き込んだ投資案件や新規事業の開発を若いうちから主担当として取り仕切ることも多いので、それぞれのステークホルダーの立場や理解に合わせた説明の仕方や丁寧なコミュニケーション、更には周囲から気に入られる愛嬌のようなものまで求められます。
こうした調整力は、トップMBAスクールの中でも、実は稀有であるというのが実情です。コンサルや投資銀行、IT系企業の出身者は、個々の業務に直結する専門スキルは鍛えられますが、多くの利害関係者を調整する機会はそこまで多くありません。MBAの授業やグループワークではチームの中に多種多様なバックグラウンドを持ったメンバーが集うことも多く、こうした状況のまとめ役として、多くの利害関係者に挟まれながらも突破してきた経験のある商社パーソンは重宝される機会が多いわけです。
2)実はドメスティックなアメリカ人、グローバルな商社流対話力
グローバルな舞台での交渉力といえば、欧米人が圧倒的に強いイメージがありますが、実はそれは真実ではないということが留学中にわかりました。確かに欧米式のビジネス慣習の上では彼らの強烈な押しの強さは強みになりますが、昨今グローバル=欧米、という時代ではありません。特にアメリカ人はホームグラウンドの市場が大きいだけに、他の国の文化に触れて仕事をした経験を持っている人も少なく、非常にドメスティックです。
例えば、 実はインドネシア人や台湾人も、議論の中で積極的に自己主張するよりも、控えめで空気を読みながら思慮深く動きます。これは非常に日本人的です。また、アジアは単純な足元のビジネスにおける損得勘定だけではなく、中長期的な人間関係も重視して動く、ウェットなビジネス文化があります。こうした感覚が、欧米人にはなかなか理解できないのが実態です。
一方で総合商社では欧米に限らず、アジアやアフリカ、南米等、幅広い国・地域の人を対面に持ち現地に根ざしたビジネスをしていますので、こうした国ごとの民族性やビジネス文化を理解した上で仕事をしてゆくという、センスが身につきます。留学中のコンサルプロジェクトでも、中国やインドが顧客企業のことも多く、こうした現地の理解力は多国籍な環境でスムーズな議論を進める上での武器になります。
3)そのエクセルの事業計画にリアリティはあるか?ハンズオン型投資スキル
最近は商社も事業投資が多くなってきていますので、商社に数年間勤めていると必ずといって良いほど何らかの事業投資案件を担当する機会があります。こうした企業買収や事業投資の実務は、一見投資銀行やファンド出身の人の方が精通しているように感じますが、必ずしもそうではありません。確かに企業価値のバリュエーションやデューデリジェンスにおけるスピードや正確性では、金融業界出身の方が強いわけですが、商社の場合は実際に投資した後に、その企業の経営にハンズオンで携わってゆきます。人によっては実際に投資した会社に出向して経営改善を図ることもあるので、投資判断の際のリスクや機会、事業計画の実現妥当性を現場目線で突き詰めて検討できる能力は高いレベルで身につきます。私自身の例でいうと、商社で自動車の販売ビジネスに携わっていたので、単なるエクセルシートでの試算を超えて、例えば小売業の在庫量と販売量、価格やブランドに与える影響のバランスを総合的に捉え、最適なバランスを検討することができました。こうした市場や現場視点の発想とファイナンスや投資のノウハウを両方同時に身につけられるのが商社の強みだと思います。
4)商いへの拘り、商売人魂で勝負する
最後に、これは商社パーソンの源流・原点とも言えるものですが、商社は明治維新後にその業態ができて以降、自身でものを作らずに商いを生業としてビジネスをしてきました。製造力や商品力で勝負できないという業態特性上、「どこでどうやったら商売が取れるか」、「売上や利益が少しでも増えるか」ということを常に探り、突き詰めて考えるのが癖になっています。こうした感覚は今でも商社の中で脈々と引き継がれていますので、実際に中に入ると自然と身についてゆきます。
どこからでもビジネスのチャンスを探し出し、あの手この手を使って少しでも優位性の高いビジネスモデルを作り出す、そうしたビジネス構想力を、技術力や製造力、専門性の高い業界の出身者で身につけている人は多くないので、より優位性が高く永続性のあるビジネスモデルを創造し構想できる力、という意味で重宝されます。