私は司法試験に合格しています。なぜ、そのような私が法曹の道を志望せず、外資コンサルを志望しているのか。
その理由は3つあります。
1. 将来の進路
まず一つ目に、私は事業再生に興味があり、それにビジネスの側面からアプローチしたいと考えていることがあります。
某大学経済学部の女学生だった私が弁護士を目指したのは、今は亡き兄のためです。
たしかに弁護士という職業に憧れていた面はありますが、私の兄は司法試験学習中に不慮の死を遂げたので、その夢を叶えてあげたいと思ったからです。
またバブル崩壊後に父の不動産業が失敗し倒産した経験から、私は弁護士の中でも、法務だけでなく、更生管財人や再生債務者代理として経営者的な視点も磨くことのできる倒産弁護士を志望するようになりました。
しかし、現代の倒産事情は、バブル世代のように多角化経営が原因となるものは多くなく、アジアやIT、少子高齢化など関して販売力の衰えが原因となるものが少なくないと言われています。
倒産弁護士は、これまで多角化経営をリストラクチャリングしてターンアラウンドすることで活躍してきたため、このままのフィールドに甘んじていれば限界が生じざるをえません。
むしろ、法務を基礎に、ビジネスを学び、経営リテラシーを身に付けた人材こそが今の日本に必要な人材であると考えるようになりました。
こうしたことから、現場のビジネスを肌で感じる必要があると考えたため、グローバルな視点を持つ優れた経営者とのより密度の濃い仕事を求めて、外資コンサルを志望したのです。
2. 弁護士からの転職の難易度
二つ目に、弁護士として職務経験を積んでから外資コンサルに転職する場合の壁の高さがあります。
私がこの道を選んだことを弁護士の先輩に話すと、「でもね、まず司法修習行って弁護士をやってみてから考えればいいんじゃないかしら?」とよく言われます。
たしかに、弁護士を経験していない段階で、事業再生について法務とビジネスのいずれのアプローチが自分に適しているかは分かりません。むしろ事業再生が自分に適しているのかも分かりません。
しかし、仮に弁護士から外資コンサルに転職する場合、ブランド力のある法律事務所の中で、さらにその所内の競争に競り勝った弁護士しか採用されないというのが実情で、特に女性だとなおさら厳しい状況にあると思っています。
他方、新卒であればそうした壁を越える必要がなく、むしろ司法試験合格者という独自性を売りにしてリクルートに取り組むことができますし、女性のコンサルタントも多くの方が経営陣として活躍していらっしゃいます。(しかも、実は司法試験の勉強とケースの勉強にはいくつもの共通点があります。)
このようなことから、決して弁護士に魅力を感じなくなったわけではなく、あくまでも今しかできない選択肢だからこそ、外資コンサルを志望しているのです。
3. 司法修習を見送るデメリット
三つ目に司法修習を1年見送ることで決定的なデメリットが生じないことが挙げられます。
司法試験に合格すると、1年間の司法修習といういわば法曹の教育実習が待っています。
これを修了しなければ、裁判官、検察官はもちろん、弁護士登録をすることもできません。
しかし、一度司法試験に合格すれば、司法修習を受けることができる期限に制限はないのです。
もちろん、外資コンサルに就職した後、キャリアアップとして修習に行くことも可能です。
もっとも、仮に外資の就活に失敗し、1年後に修習に行く場合も十分ありえます。
その場合にはデメリットは3つあります。
弁護士が就職難であるにもかかわらず先の合格者の分だけ就職先が埋まってしまうこと、同期との間に実務経験の差が生じること、同期と修習時代を過ごせない疎外感です。
しかし、いずれも大きなデメリットではありません。
前二者については、同期よりも法務以外の点で成長すれば良いだけですし、最後の点についてはほぼ感情論です。
こうしたことから、修習に行かないとしても決定的なデメリットはなく、それに代わる強みを身に付けることでフォロー可能であると考えたため、外資コンサルを志望しています。
私のこのようなキャリア選択は、実情に合致していますでしょうか。
アドバイスをいただけると幸いです。
講師による回答
お兄様、お父様の無念が志望動機の原体験になっているのですね。それに縛られることなく、自由にご自身がなさりたいことを考えるのも一案かと思いますが、当サイトへの御相談という主旨に則り、問われたご質問に端的にお答えします。
最後は、ご自身に関する情報をより多くお持ちのあなたの決断次第でそれを後押し、尊重したいと思います。しかし、これらの業界で長らく身を置いてきた第三者的には、弁護士資格を先に取得されることをお勧めします。以下でご質問内容に含まれる、いくつかの誤解を指摘させてください。
3点に直接答えるならば、①企業再生の現場では弁護士の仕事が不可欠であり、②一流の弁護士事務所でなければコンサル転職が不利になるということはありません。一流弁護士事務所ですと、一流ロースクールでトップクラスの成績で、、というのが響きますが、コンサルは別です。また③司法修習生の一年は若いうちに出来るだけ終えた方が良いのです。これは、給料が高くなってからだと、”一年勉強すること”の、機会費用が高まるからです。以下で詳細を見ていきましょう。
第一に、企業再生における弁護士資格の有用性についてですが、困難な状況にある投資先企業が直面する銀行団との交渉にも弁護士としての事業再生業務の経験が大いに生かされるでしょう。ご指摘通り、今のバリューアップはバランスシートではなくPL、中でもトップライン(売り上げ)を伸ばすことが問題ですが、それでも一定数の企業は倒産の危機に瀕しますし、今のリーマンショック後10年にわたった超長期ブルマーケットも、終わりを告げようとしています。
コンサルは差別化が難しい業界ですが、その点企業再生分野の弁護士経験はあなたの大きなエッジになりますし、またコンサル後のプライベートエクイティなどの進路にも役立つでしょう。(PEは、コンサル出身者と弁護士出身者も多いのですが、あなたは両方カバーすることになります)
倒産しかけている企業ないし倒産してしまった企業の整理業務で学ぶことは大変大きいものですし、大抵のコンサルプロジェクトでは経験できない貴重な体験の数々です。将来企業再生の仕事をされるときも弁護士をうまく使いこなす必要があり、弁護士だからこそできる経験を積んで、差別化されることをお勧めします。
案件が無いのではというご不安ですが、安心してください、現在もこの金融緩和のさなかシャープが大リストラをしているよう、競争に敗れた企業の破たん案件は件数の多寡こそあれ、安定的に存在します。
企業倒産は、継続する大幅金融緩和で幾分減っていますが、潜在的な不良債権はかなり大きくなってきているはずです。
これらは金利が上がる局面で急速に顕在化するでしょう。
第二に、転職の機会に関してですが、一流の弁護士事務所の方が当然転職に有利ですが、そうでない弁護士事務所でも転職に不利にはなりません。
確かに西村あさひや長松大野、キムアンドチャン、リンクレーターズやサリヴァンクロムウェルといった、エリート弁護士事務所といわゆるトップティアでない弁護士事務所の格差は目も当てられないほど大きいものですが、弁護士資格を通る勉強を達成した、という事実自体が貴方の仕事能力に関する大きなシグナリング効果を持ちます。
第三に、一年の修習期間に関しては、働いても給料が比較的低い若い間に済ませた方が良いです。
既にキャリアを積み、仕事の責任も給料の額も大きくなった時に一年キャリアを断絶させるコストはことのほか大きいものですし、そのコストの大きさから尻込みして、結局、獲得寸前の弁護士資格を逃すことにもなりかねません。
弁護士資格取得を望まれるのでしたら、出来るだけ早く修習期間を済ませて下さい。
弁護士をされることになった場合は、単にリスクを指摘するだけの弁護士ではなく、ビジネス感覚の豊かなディールメーカーとしての弁護士を目指しましょう。
企業が苦境に陥った時、私的整理で話がまとまらなければ民事再生で管財人の弁護士先生の出番になるわけですが、残念ながらビジネスセンスのない弁護士の先生が、スポンサーの提案するろくでもない提案と、実は隠れているスポンサーが大もうけする仕組みを見抜けず、あまりフェアとは思えない裁定をしているケースが多いのは残念な限りです。
そんな中、あの先生に頼めば再生が上手くいく、というレピュテーションを築けば結構毎回指名されるようになります。
どうしても弁護士業務に興味がなくて、代わりに強くやりたいことがあるときは別問題
ただし、弁護士の仕事があまりにも嫌で向いていないことを確信された場合は別の話です。
法律の勉強をされて、弁護士業務だけは絶対に嫌だ、と悟る人もいるので、ご自身がそのタイプであると強い確信があるのであれば、その限りではありません。
そもそも法律関係の仕事が肌にあわない、あの契約書を書くのはうんざりだ、リスクばかり筵のように洗い出して果てしないDisclaimerをもっともらしい言葉で書いて悦にひたるなんてまっぴらだ、という理由で弁護士を辞める方私の周囲に結構います(当セミナーの講師一名を含む。)有名なネットライフの岩瀬さんも、在学中に司法試験を合格したものの法曹には進まず コンサルティングファームに入られました。
当セミナー過去参加者の中にも、司法試験の面接以外は通ったものの、途中でトレーダーというまったく違うキャリアを選ばれ、結果成功されている方もいらっしゃいます。
最後はご自身を一番よく知る、相談者様のご判断だと思いますが、①すでに司法試験を合格したのであれば、追加的1年研修と弁護士業務を経験する「事業再生プロフェッショナル」としての差別化ファクター ②機会費用が低い若い間に学んだ方がいい ③PEなど、コンサルより本当に事業再生を迫られる職業で、差別化要素となる の3点をご検討いただければと思います。