京都大学理学研究科 数学・数理解析専攻 Nさんより質問
私はコンサルティング企業への就職を希望していますが、コンサル業界は途中で辞めていく人がとても多いように感じます。
辞める理由は様々だと思いますが、経験を積んだ力の有るコンサルタントの多くが辞めていく事はコンサル業界としての損失だと感じます。
また、この疑問に対してコンサルタントの方から、『ポジティブな理由(クライアント企業の重役となる、起業をする)で辞める人が多いからそれは問題ではない』という答を頂く事が多いです。
ただ辞める人は結局は移動先よりコンサル業界の方が魅力(待遇、やりがい等)が低いから辞めるのでは無いかと思います。
もしそうなら、コンサル業界がもっと多くの人が最後まで働きたいと思い、それが可能となる形を模索する必要があるのではないかと考えています。
この様な、私の認識についての御意見を頂けると幸いです。
弊社からの返答:コンサルからの転職と、ポストコンサルキャリア戦略は様々
より魅力的な機会が開けるうえ、アルムナイとして古巣と一緒に働くことも多い
入る前からコンサル業界の行く末を心配される、問題意識が高すぎるあなたに、心から拍手を送りたいと思います。
さて、
①コンサルからすぐ転職する人が多いのはコンサル業界の損失ではないか、
②相対的に魅力が低いからコンサルから転職するのではないか、
③コンサル業界は魅力を高める方法を模索するべきでは、
という3点の問題意識を頂きました。
一点目に関しては、必ずしも損失ではなく、アルムナイ(卒業生)ネットワークを強固にすることでクライアント側に回ったOBから仕事をもらえたり、独立後も古巣と一緒に仕事する機会が多かったりするのも現実です。
また、向いてない人は早く退社してくれないと双方にとって不幸なのはいうまでもありません。
もちろん優秀なコンサルタントには転職せずに長らく働いてほしいものですが、流動性が高いからこそ、「とりあえず数年やってみよう」という人を引き付けられるので、門戸が広いのも事実です。
二点目に関しては、コンサル業界の相対的魅力が低いというより、ライフステージや人の個性によっては、お声がかかる機会の種類も変わりますし、次に数年を過ごしたい業界が変わっていくのも当然のことでしょう。
マッキンゼー、BCG、ベインなどコンサルトップファームにいれば、顧客企業から声がかかったりプライベートエクイティへの道が開けたり、様々な機会が開けるから、コンサルでの経験に感謝しながら退社していく人が多いということを申し伝えたいと思います。
コンサルを経験したからこそ、ポストコンサルキャリアとしてやりたくなった仕事も多いですし、コンサルを経験したからこそ、採用側にも興味を持ってもらえる人材になれたケースも多いのです。
また、大学4年間楽しかったからと言って、もう一回4年間入りなおす人はあまりいませんよね?もちろん長らく同じようなプロジェクトに入る羽目になると、ラーニングカーブも落ちてくるでしょう。ライフステージごとに経験したいことが変わるのは、健全な成長なのです。
三点目に関しては、業界の魅力を高める努力はかなりなされていますが、優秀な人材獲得競争は激化しており、コンサルタントの転職先もスタートアップや起業を含めて、多様化してきているのです。
これは欧米支社で顕著ですが、労働時間を短くしたり(マッキンゼーでもロンドンオフィスは8時を超えたらほとんど家に帰っています)、休暇を長くしたり、エクスターンシップという形で3年ごとに半年なり一年、顧客先やNPOで働く経験を持たせたり、副業を認めたり出戻りを認めたり、在宅勤務を認めたりと、優秀な人材の獲得競争に負けないよう、様々な試みがトップファームの間では試みられています。
あと日本の事例では、某A社は、退職頻度が高く社内不満度が最も高いコンサルファームのひとつでしたが、ヘッドハンターに”御社には人を紹介できない”と言われたショックから奮起し、数年後には社員満足度が劇的に改善しました。(いや、A社なんてもったいぶらず、白状しようかな。アクセンチュアです。)
特に人手不足の今日、魅力的な人に来て欲しいと思っている企業はコンサルに限らず、ミレニアルが求める人間らしい生活により敬意を払うようになっていくでしょう。
働き方への価値観が変わりつつある今、起業家や社会起業家に転身したりする人も随分増えてきています。
逆に、職場・キャリアとしての魅力を高めることに失敗しているコンサルファームは、人材獲得競争でも劣位に回り、早期退職者の増加に悩まされ、規模拡大どころか、「コンサル市場拡大局面での組織規模縮小」の憂き目にあっています。
ネガティブなコンサルからの転職・退職志望動機 その①:ラーニングカーブが平たんに:実行力およびインパクトの無さに問題意識
ただ、ネガティブな理由のコンサル転職にも、いくつかのパターンがあります。 よくあるのが”コンサルとしてのラーニングカーブが緩やかになってきた”というもの。具体的には、アドバイスだけに飽き足りず、会社を実際に経営したくなるタイプです。
コンサルは成長志向の強い人が入ってくるので、一通りコンサルとしての動き方を覚えた後は、今度は”実行力・経営力”の方にラーニングや成長の源泉を求める人が多いのです。
確かに3ヶ月や6ヶ月、インタビューやデータ分析ベースの絵を描くだけというプロジェクトが続いてしまうと、実際に自分は経営が出来るのだろうか、、とフラストレーションがたまるものです。
コンサル転職・退職志望動機 その② 専門性欠如に不安を感じることも
また、専門性に不安を感じ、突き詰める分野を探したくなるポストコンサル転職パターンが多いです。最近はコンサルからの転職先として金融業界の人気が急落していますが、それでもコンサルティングから投資銀行やアセットマネジメント、プライベートエクイティに移る人がけっこういるのは、コンサルティングだけだと金融や財務の知識が欠如するケースが多いためです。
(またスタートアップをしやすくなり、社会的にも”まっとうなキャリア”として受け入れられるようになったので、コンサルから起業に走る人も随分増えました。)
実際にコンサルしかやってないと、その後ファンドに移っても銀行交渉やディールのエクセキューションを全然知らず、またキャッシュマネジメントに失敗して会社が倒産寸前になるまで手も足も出さなかった、という事例も散見されます。
コンサルからの早期退職の典型的理由として、「専門性が身につかないから」というのは、上記の成長カーブの鈍化や、実行側に回りたいから、といった理由とともに最も多い、コンサル早期退職理由の一つです。
コンサル転職・退職志望動機その③ 体力的な限界
あとはなんといっても、若いときは平気かもしれませんが、体力的にきつくなるのも確かです。コンサルティングはアセットマネジメントと違い、常に走り続けなければならないビジネスモデルです。
自分が必ずしも詳しくない分野で、毎回クライアント企業、産業、テーマが変わる中で、その分野の専門家であるクライアントに付加価値を出さなければ生き残れません。忙しい時は本当に忙しいですし、プロジェクトが渦中の時は、夜中の2時までひたすらパワーポイントのプレゼンテーションを作りまくる、、みたいなことも日常茶飯事です。
30代前半まではそのような過酷な労働時間も体力と気力でなんとかなりますが、30代中盤からは体の無理が利かなくなってきます。「この生活があと何年続くんだろう。。。」という体力上の不安から、エグジット先を探すようになる人が多いのもこれまた事実です。
しかし、コンサル転職で得られる経験は、決して無駄な経験にはならない
以上の理由のどれかか、その組み合わせによって、数年でコンサルを離れる人も結構いますが、総じてコンサルの経験を後悔している人はお目にかかったことがありません。
ビジネスの基本や多角的な視点、顧客との折衝やプロジェクトのまわし方を学ぶ上で、また人脈とクレデンシャルを築く上で、総じて実り多いキャリアとして貴方のレジュメを彩ってくれることでしょう。
なお最後に本質的なことを一つ書きますと、転職するときはコンサルだろうがどんな職業だろうが、次の仕事でのラーニングカーブや、やっていてワクワクすること、一緒に働く人とのフィット、そしてなにより、自分が世の中にどんなバリューを出して生きていきたいのか、その会社で求められるバリューとフィットしているのかを考えて決めることが重要なのです。