悲惨!PEファンドからの転職、完全敗北組の末路!PE転職敗者に学ぶ教訓とは?
PEは門戸狭き業界だが、せっかく入社したPEに不満をかかえ、一発逆転狙いで事業家になるひとがいる。
PEを辞めて栄転したひと、奈落の底におちたひと、苦戦はしているが世間体とメンツは保てたひと、もはやメンツもなにもない完全敗北のひとなど、筆者は数多くのPE「飛び出し」事例を目の当たりにしてきた。本コラムでは、最悪パターンである「完全敗北」の実例をとりあげ、読者の反面教師にしていただく。
ポートフォリオ企業就職の事例
A氏は、PE社内で期待されていない、古株ディレクターだった。
新ファンド立上げの際もパートナー昇格対象からはずされ、あまり重要でないポートフォリオ企業のモニタリングが主たる業務だった。挙句の果てには、社内勉強会の窓際プロジェクト責任者に任命される始末である。
PE側は、彼を個室によびだしてこう切り出す。「この(投資先)会社の財務が弱くて心配している。一回中に入り込んで立て直してきてくれないか。」 転籍のオファーである。
あなたの自尊心を傷つけず、でもそれとなく、PE側にあなたの居場所がないことにも気づいてほしいという期待も込めて、この言い方をする。Aも薄々にはPE側の真意に気づきはしているが、それを完全に認めたがらない。
「おれは本当に期待されている。」「ポートフォリオの中に飛び込んで立て直せば、PEに舞い戻ってパートナー昇格もありうるはずだ。」と自分に言い聞かせて、彼はこう返答する:「確かにここは心配ですね。しかたない。では私がここを立て直してみせましょう。」
結局、PEでリストラされたAが投資先で好かれる理由はなく、1年もたたないうちに、そこでの居場所すらなくなり、Aはさらに転職活動をする。
ハードウェアベンチャー合流の事例
Bは、「誰かの下」で働くことがとにかく我慢ならないタイプの人間だ。ある日、新ファンド設立時のパートナー昇格からはずれ、自分よりはるかに年下の同期生がパートナー(=上司)になり、彼への妬みと劣等感をもっていた。
そんな中、Bは、某知人からロボットベンチャーのCFOの職をオファーされ、即座に承諾しPEを飛び出してしまった。
「ユニコーンになってエグジットしてみせる」と啖呵を切ってPE業界を去ったBは、数年経ったいまでも、同じロボットベンチャーの資金繰りに奔走し、疲弊しきっている。(ハードウェアベンチャー起業で成功する確率が低い理由につき、詳しくは●月●日掲載の「△△△△△」(article #7)参照。)
謎の大金持ちプロジェクト従事の事例
某PEファームで、パートナーになれない「万年ディレクター組」だったCは、現在、某資産家の「プロジェクト」に従事している。そしてこのケースは、PEキャリア失敗組の末路として、少なくない。
選りすぐりエリート出身のPE出身者は、総じてプライドが高い。したがって、役職にこだわる。そこで、自分に独立創業するアイデアや資金がなかったり、事業会社に好待遇で迎え入れられる縁に恵まれなかった場合、知り合いの資産家のプロジェクトとして、事業会社社長をうけもつパターンだ。
PE時代と比較すれば安月給、アイデアも資産家の思いつき、株も資産家に掌握され自分には愛想程度。社長の肩書は自尊心を保つためだけの飾りだ。実質、無名企業のサラリーマンといえるが、本人のみがそれを認めようとしない。
上記3つの事例からうかがえるように、出世できないPE社員が、功を焦り安易に事業家の道に走ると、大抵の場合足元をすくわれる。
どのPEファンドのリユニオン(忘年会・同窓会)でも、やたらと無名企業の役員肩書の名刺をくばり、暗い顔を必死に隠しながらビジネスの話ばかりしてくる妬み深いOBたちが2人いる。彼らこそ、安易に事業に走り、PE失敗組の末路をたどるひとたちだ(以下、”depressed, hateful
OBs”, DHOBという)。
「たったの2人?」と思うかもしれないが、筆者推定、あまりに人生の調子が悪すぎてリユニオン参加を見送るDHOBが、参加してくる勇者の約3倍いる。とすると ”8 DHOBs per PE firm”の計算になる。
彼らDHOBの人生は辛い。いつまでも開花しない今の職責がキツくても、勢いある初期に多方面から紹介の世話や資金支援してもらった経緯上、簡単に投げ出すわけにもいかない。できれば古巣のPEに戻りたいが業界の常識的に出戻りなど許されない。転職するにも、今の役員待遇にこだわれば「格」の見合うポジションにそう空きがないし、逆に「格下げ」はリクルーターに説明しづらい。
金銭的にも体力的にも精神的にも、いまがとてつもなく辛いのに、自分のキャリア流動性も失われるのが、DHOBだ。
DHOBにならないための、PE業界しがみつき戦略
DHOBにならぬためには、プライドなど捨ててそのままPEにしがみつこう。上述A氏のように、あなたがPEリストラ組でも、自分からPEを見限ったわけでないなら、世には、給料が低い代わりに実績もそこまで問わず、人材の「新陳代謝」もそこまで活発でないという、役所のようなファンドがなくはない。政府系および民営化された金融機関の社内オルタナティブ投資部門をあたってみよう。
もちろん、ただPEにしかみつき、茫然と待っていたとしても縁が巡ってくるわけではない。著名作家の塩野七生は、マケドニアのアレクサンドロスを引き合いにだして語る:「戦場では、主導権を持ったほうが且つ。待ちでいなくてはならない状態でも、ただ待つのと、機を狙いながら先のことを考えながら待つのとでは全く違う。チャンスが訪れたときのつかみ方が違う。」
これは、ポスト・PEキャリアにもそのままあてはまる。
PEに不満をかかえ、業界を飛び出すことを考えるPE社員諸君も、事業の怖さについて今一度自戒し、待つことの大切さを噛みしめてほしい。目の前のチャンスをなんでもつかむのでなく、ぐっとこらえ、その先を考えながら待ってほしい。そうして、アレクサンドロス級のチャンスをつかんだうえでのぞむPEリユニオンは、きっと一晩中たのしいはずだ。
*写真はプライベートエクイティ転職徹底対策テキストより抜粋